ラスト・ドア　感想

本作はイタリアのゾンビ映画でありながらスプラッター表現が皆無に近いという暴挙に出ており、視覚的なお楽しみはほとんどありません。代わりにあるのは移民受け入れについての問題提起です。いい加減で陽気で大雑把な国民性のイタリア人が作ったとは思えない（偏見）マジメさが本作から娯楽性を消し去っています。


イタリアでもこんなマジメな社会風刺映画が作られてしまうほど移民問題は深刻化しているらしい。ローマで移民排斥を主張する政治集会を開き、移民攻撃を前面に出しているマッテオ・サルヴィーニ副首相は、政権を握るために解散総選挙に持ち込もうとしているとか。制御できない移民の流入が生活環境を悪化させ続けており、寛容なイタリア国民でもさすがに移民受け入れ反対派が優勢になりつつあるということでしょうか。


本作に出てくるイタリア人はエンリコという青年1人だけ。彼がゾンビから逃れ、移民収容所にアフリカ系移民と共に籠城戦を強いられる…という話です。声高に移民排斥を叫ぶエンリコですが、そんな極限状況でも移民に対する差別感情を露わにするわけにはいかない。生存を優先するために移民と仲良くしようと努力します。排斥する側から、されるかもしれない側へ転落するミジメさ。移民を受け入れすぎて将来人口比が逆転した時の恐怖。少子高齢化に悩む日本もあまり他人事ではないでしょう。


しかし、打算的とはいえそうして移民とコミュニケーションをとるうち、エンリコと移民たちの間に本物の絆のようなものが生まれてきます。集団としては問題になるが、一人ひとりと接すれば仲良くなれないわけではない。収容所の少年とサッカーに興じるエンリコの姿は大変印象深いものがあります。

ところがそんなものを真に受けて、本作が移民受け入れを説く博愛的ヒューマニズムの溢れる説教映画なのかと思ったら全くそんなことはなかった。いざゾンビが収容所になだれ込んでくるとそんな上っ面の人道的な顔などどこかへ吹っ飛んでしまい、人間の本性がショッキングなほど露骨に表れます。

「移民受け入れは結構だが、それで国が崩壊するような危機に陥ったらどうすんの」「かと言って差別的に排除するのもよくないことだしなあ」というようなイタリアの苦悩が伝わって来るゾンビ映画でした。他人事でないとはいえ娯楽性には著しく欠けるので、なんか愚痴を聞いているような気分になる映画です。ということで、ゾンビ映画ファンではなく移民について思いを巡らせたい人にオススメしておきます。